
10月28日(水)、マンハッタンの日本クラブで、在米日系企業のメンタルヘルスをテーマにした会「High-Performance Companies in the Global Economy ── Why Mental Health Is an Essential Strategic Priority for Japanese Subsidiaries in the U.S.」が開かれました。共催は One Mind at Work、コロンビア大学 Mental Health + Work Design Lab、ニューヨーク日本商工会議所(JCCI NY)です。
会の後半、職場でのメンタルヘルスの実践例を紹介する事例発表に招かれたのは、Mitsubishi Corporation (Americas) と当学園の2組です。2026年5月、当学園は学校としていち早く One Mind at Work と提携し、まず教職員のメンタルヘルスから取り組みを始めました。その歩みと、これから生徒・保護者へ広げていく道すじを、理事長兼学園長の武田秀俊が語りました。
| 日時 | 2026年10月28日(水)18:00 – 20:00 |
|---|---|
| 会場 | 日本クラブ(ニューヨーク) |
| 共催 | One Mind at Work U.S.-Japan Coalition × コロンビア大学 Mental Health + Work Design Lab × ニューヨーク日本商工会議所(JCCI NY) |
| 支援 | J.C.C. Fund |
WELCOME & OPENING REMARKS


はじめに、JCCI NY の前田正明さんが、日米で25年働いてきた自らの経験にも触れながら、「職場のメンタルヘルスは、米国で事業を行う日本企業にとって、とりわけ重要な課題です。今夜は最初の集まりですが、長く続く取り組みの始まりにしたい」と開会を告げました。
続いて、片平聡 在ニューヨーク総領事・大使が登壇しました。米国の日本企業は、言葉も文化も期待も異なる「二つの世界のあいだ」で働いていると述べたうえで、話を海外での暮らしへ広げました。
今日の準備をしながら、ひとりで来るのではなく、妻を連れてくるべきだったのではと思い始めました。家族の海外への引っ越しを支えてきた妻のほうが、このテーマを語るのにふさわしいかもしれません。海外赴任は、社員だけでなく家族全体に影響するからです。
だからこそ、メンタルヘルスは単なる社員の福利厚生ではありません。人に、家族に、そして次の世代に向けた投資なのです。― 片平聡 在ニューヨーク総領事・大使
WORKFORCE MENTAL HEALTH: FROM SCIENCE TO PRACTICE



ニューヨーク市長室でメンタルヘルス施策を担う Yumiko Ikuta さんは、日系企業の駐在員の家庭で育った自身の経験を交えながら、日本の文化に根づく偏見(スティグマ)が、必要な支援から人を遠ざけてきたことを語りました。悩みを抱えたときに24時間つながる相談番号「988」や、同じ立場の人どうしで支え合うことの大切さにも触れました。
One Mind CEO でコロンビア大学 Mental Health + Work Design Lab のディレクターも務める Kathleen M. Pike 博士は、メンタルヘルスを「福利厚生」としてではなく、組織が力を発揮するための「経営の必須事項」として捉え直そうと呼びかけました。日本では約7割の働く人が深刻な仕事のストレスを抱え、仕事に意欲的に取り組めている人は8%(世界平均は20%)にとどまるといいます。
One Mind で日本のメンタルヘルス事業を率いる小風華香さんは、父の海外赴任にともなって神戸・東京・ニューヨーク・ヒューストン・ロンドンで育った自らの経験にも触れ、組織の取り組みを測る「Mental Health at Work Index」を紹介しました。「測れないものは変えられない」という考えのもと、「心の不調を防ぐ」「心の健康を育む」「必要な支援を届ける」の三つの面から組織の現在地を確かめるものです。

CORPORATE CASE STUDY

Mitsubishi Corporation (Americas) で人事の最高責任者を務める Simon Babraff さんは、自身も駐在員として米国に赴任した経験を語りました。
「自分にとって米国は比較的なじみやすかったけれど、家族は違いました」。妻は最初、友人がひとりもいないところから始め、息子は授業の英語に苦労したといいます。家族が苦しんでいると分かっていながら、仕事を抜けて先生に会いに行くことをためらい、誰にも言わずに抱えていた──そうした経験は、日本人社会では決して珍しくないのではないかと語りました。
SCHOOL CASE STUDY ― MENTAL HEALTH AS FOUNDATION
続いて登壇した当学園 理事長兼学園長の武田秀俊は、まず会場にこう問いかけました。
「駐在員は、ひとりでやって来るわけではありません。配偶者と子どもと一緒にやって来ます。Ikuta さんや小風さんが語ってくださった苦しみを、次の世代に引き継がないためには、どうすればいいのか。それが、私たちが取り組みたい問いです」

職場のメンタルヘルスを語るとき、私たちは、社員と一緒に飛行機に乗ってきた家族のことを忘れがちです。― 武田秀俊(発表スライドより)
子ども、保護者、先生。この三者は互いに影響し合っています。保護者が家でストレスを抱えていれば、子どもはそれを見ています。また、当学園の先生の多くも日本から来て、慣れない環境で子どもたちと向き合っています。
当学園は One Mind at Work と正式に契約し、Mental Health at Work Index による最初の評価を終えました。武田は、その結果を包み隠さず示しました。
「実践は既にされている」。足りないのは、それを言葉にし、戦略にし、数字で測ることです。「2.1」は、長年の実践を言葉と数字に置き換えていくための出発点だと位置づけました。
そのうえで、取り組みを次の三つの段階で進めていくことを紹介しました。

最後に武田は、会場の企業のみなさんへ向けて、こう呼びかけました。
「職場のメンタルヘルスというと、平日の9時から5時の話になりがちです。でも、心の健康ケアはそこで止まりません。職場の中と外を、学校と一緒に見ていきませんか。私たちが教えているのは、みなさんの社員のお子さんです。そして同時に、次の世代のグローバル人材を育てています。どうか投資してください」
社員のメンタルヘルスは、朝9時に始まって夕方5時に終わるものではありません。それは子どもの教室の中にあり、夕食の席でパートナーが投げかける問いの中にあり、日本にいたころの自分と、ここで変わりつつある自分とのあいだにあるのです。― 武田秀俊(発表スライドより)

FROM ONE MIND
武田を紹介した Pike 博士は、当学園を「One Mind at Work の新しいメンバーのひとつであり、武田さんのもとで Index を終え、強みと伸びしろを確かめながら戦略を立てているところ」と述べました。そのうえで、「生徒の心の健康を高めたくても、生徒が先生や職員より元気でいるのはとても難しい。だからこそ、教職員をこの学校の屋台骨と考え、生徒を支える力をつけてもらうことから始めている」と、当学園の進め方の意味を説明しました。
会の締めくくりに、Pike 博士はこう語りました。「その組織が本当に働く人の心を大切にしているかを見極めるいちばん早い方法は、自分の子どもや孫をそこで働かせたいと思えるかを、自分に問うことです」
WHAT’S NEXT
「One Mind と一緒に取り組むことで、どこを伸ばせばいいかが分かりました。来年またみなさんの前でお話しするときには、学校がもっとよくなって、子どもたちも、先生たちも、そして保護者のみなさんも、もっと幸せになっていればと思います」。武田はそう語って、発表を結びました。
当学園は、One Mind at Work とともに、教職員・生徒・保護者をひとつのつながりとして支えるメンタルヘルスの取り組みを進めてまいります。
